Claude の三ツールで銘柄深度分析を仕上げる方法:Fabrinet (FN) を事例に
大半の人が AI で投資研究をするやり方は「チャットを開く → 質問する → コピー&ペースト」である。本稿はまったく別の方法を示す。Claude の Skill(標準化スクリーニング)、Project(永続ワークスペース)、CoWork(ローカル実行)という三層アーキテクチャで、研究を一回限りの会話から再現可能なシステムへ変える。Fabrinet (FN) を事例に——300 銘柄から FN を篩い出し、6,600 字の報告を出して公開するまで、一歩ずつ分解する。

一、「AI と雑談する」は「AI で研究する」ではない
こんな経験はないだろうか。Claude と三時間話し、一銘柄をあらゆる角度から分析し、収穫は十分だと感じる——しかし次に新しい会話を開くと、すべてがゼロから始まる。前回議論した産業ロジック、整理した財務データ、導いたバリュエーションレンジがすべて消える。自分が誰で、何をしていて、どんな分析枠組みなのかを、また説明し直さなければならない。
これは AI の問題ではなく、ワークフロー設計の問題である。
チャット画面(Chat)は優れた思考ツールだが、三つの根本的制約がある。記憶がない——毎回の会話は新規であり、前回の研究成果は自動では持ち込まれない。標準化がない——分析の質はその日の質問の質に左右され、調子が良ければ深く聞き、疲れていれば手を抜く。蓄積がない——十回の会話の知識は十の窓に散らばり、決して合流しない。
2026 年初、Claude は三つの機能を出し、この局面を一変させた。Skill、Project、CoWorkである。この三層ツールはそれぞれ一つの問題を解き、組み合わせると完全な研究システムになる。しかも重要なのは——これは理論枠組みではなく、自分が毎週実際に使っているワークフローだという点である。以下、Fabrinet (FN) の研究過程で示す。
二、三層ツールの位置づけ:オフィス、フォルダ、SOP
実戦を示す前に、まず比喩で三者の関係をはっきりさせる。
| ツール | 解く問題 | 比喩 | 投資研究での役割 |
|---|---|---|---|
| Skill | プロセス標準化 | 壁に貼った SOP フロー図 | CANSLIM スクリーニング規則、四層防御フィルター、記事テンプレート |
| Project | コンテキストの永続化 | 特定案件専用のフォルダ | FN 研究ワークスペース:決算、ノート、過去分析がすべて入る |
| CoWork | 実行の完遂 | あなたのオフィス——AI が隣で直接手を動かす | ローカルファイルを読み、スクリーニング脚本を走らせ、Word/Excel/HTML を出力 |
核心洞察:三者は入れ子関係である。CoWork がオフィス、Project が机上のある案件のフォルダ、Skill が壁に貼った SOP である。CoWork の中に複数の Project を開け、各 Project に複数の Skill を掛けられる。単独でも価値はあるが、三者を直列にして初めて真の力の増幅器になる。
三、Phase 1:Skill スクリーニング——FN が 300 銘柄から浮かび上がるまで
問題:数百銘柄を前に、どこから始めるか?
毎週 MarketSurge から落とすリストはざっと 300-800 銘柄になる。Growth 250 は 300 銘柄、Minervini Trend は 860 銘柄、Near Pivot は 47 銘柄。人手で一銘柄五分なら、860 銘柄は 70 時間である。
自分のやり方は、スクリーニング規則を一つの Skill に封入すること——一度書けば永久に呼び出し、人間の調子の波に左右されない。
CANSLIM / SEPA スクリーニング Skill の規則
自分は marketsurge-canslim-sepa-screener という名の Skill を作り、六つのスクリーニング閾値を封入した。
| 項目 | 閾値 | ロジック |
|---|---|---|
| Comp Rating | ≥ 90 | IBD 総合スコア上位 10% |
| EPS Rating | ≥ 80 | 利益品質上位 20% |
| RS Rating | ≥ 80 | 相対強度上位 20% |
| A/D Rating | ≥ B+ | 機関の買い越し勢いの確認 |
| SMR Rating | ≥ B+ | 売上/利益/ROE の総合品質 |
| Ind Group Rank | ≤ 50 | 産業はリーダー群にいなければならない |
加えて、Near Pivot と Recent Breakouts リストは Base Stage ≤ 2 を追加要求する(後期パターンを拒否)。Ants List は機関買い越し Count ≥ 2 を要求する。これらの規則は Skill にハードコードされ、月曜に元気でも金曜にヘトヘトでも、スクリーニング基準は完全に一致する。
実際の操作:30 秒で完了
Claude はリスト種別を自動識別し、六つの閾値を適用し、段階付き報告を出す——しかも交差照合を行い、複数リストに同時出現する銘柄を見つける。結果として、FN(Fabrinet)は 4 つのリストに出現した。Technical Strength、Minervini Trend、Growth 250、William O'Neilであり、その週の交差照合で最強シグナルの一つだった。
六項目すべて通過、4 リストに出現、深度研究候補に入れる。
対比として、同じバッチのスクリーニングで Cloudflare (NET) は A/D Rating が C のみだったため、最初の関門で落とされた。これは NET が良い会社ではないという意味ではない——むしろ現時点の機関需給は、オプション売り手での参入を支持しないという意味である。システムに感情はない。それこそが価値である。
Skill の核心価値:「毎回リセットする」摩擦を消し、品質の一貫性を確保すること。同じスクリーニング規則で 300 銘柄を走り切るのに 30 秒しか要らず、「この会社の物語は聞こえが良い」だけで基準を緩めることも決してない。
四、Phase 2:Project で研究ワークスペースを作る——Claude にすべてを覚えさせる
問題:三日研究して、四日目に会話を開くとすべてがゼロ
FN の深度研究には前後五日かかった。一日目は産業チェーン、二日目は財務分解、三日目は競争分析、四日目はバリュエーション、五日目は組版と公開。普通の Chat なら、毎日決算を貼り直し、「六章構造を使う」「ブランド色は #2d3f5e」と説明し直す——この繰り返し説明だけで 20 分を食う。Project が解くのはまさにこの問題である。
FN の Project をどう設定したか
CoWork デスクトップ版で、FN 専用の Project を作り、中に三点を置いた。
1. 指示文書(Instructions):研究枠組み——六章構造(産業地図 → 競争構図 → 企業体質 → 成長エンジンとリスク → バリュエーションシナリオ → 戦術結論)、ブランド色 #2d3f5e / #EF9F27、署名「柴行者」、Ghost CMS Lexical HTML Card の配信形式。Claude は Project を開くたびにこれらを自動で読む。
2. 参考文書:FN の Q2 FY2025 決算要約(売上 $11.3 億、YoY +36%)、顧客構造分析、光通信産業 400G → 800G → 1.6T の技術ロードマップ、および前回の CANSLIM スクリーニング結果。
3. 掛ける Skill:CANSLIM スクリーニング Skill とオプション四層防御フィルター Skill。研究過程のどこでも呼び出せる。
設定後、三日空けて Project を開くと、Claude は直ちに知る。あなたは FN を研究しており、六章構造を使い、前回は競争分析まで進み、決算データはここにあり、ブランド形式はここにある、と。
Claude に会社背景、財務データ、産業ロジックを説明し直す必要はない——すべてが Project の中にあるからだ。
Project の核心価値:研究を「一時停止・再開」でき、「毎回やり直し」にしなくてよいこと。基本に聞こえるが、一日を超えて完成する研究では、品質の分水嶺である。
五、Phase 3:CoWork が手を動かす——産業地図から公開まで
問題:AI は文字の山をくれるが、欲しいのは公開できる完成品
Chat モードでは、Claude の出力は対話枠内の文字であり、自分でコピーし、組版し、形式変換する必要がある。CoWork モードでは、Claude があなたのコンピュータ上で直接ファイルを出す——HTML、Excel、Word——指定フォルダに保存する。この差は小さく見えるが、実際には作業のリズム全体を変える。
五日の研究過程
一日目:産業地図。FN は位置づけが難しい会社である。チップを設計せず、ブランドを持たず、末端顧客に直接向き合わない——AI データセンター光通信サプライチェーンにおける「精密な受託製造」の役割である。Claude に FN の産業チェーン上の位置を調べてもらった。
Claude は明快な構造を整理した。GPU 相互接続 → 光ネットワーク機器 → 光モジュール → Fabrinet 製造。FN は設計をせず、技術障壁が極めて高い精密な受託製造だけを行う。この位置の利点は「どの光モジュールメーカーが勝っても、FN は受注を取る」こと。リスクは顧客集中——上位二顧客が売上の 50% 超を占める可能性があることである。
二日目:財務分解。FN の決算データを Project フォルダに入れ、Claude に整形した比較表を出させた。CoWork はローカルファイルを直接読むので、対話枠で手コピー&ペーストする必要はない。
| 指標 | データ | 評価 |
|---|---|---|
| Q2 FY2025 売上 | $11.3 億(YoY +36%) | 成長加速 |
| EPS | $3.36(史上最高) | 品質優秀 |
| ROE | 18-22% | 高効率メーカー |
| 負債 | ゼロ(D/E = 0.00) | 極度に保守的 |
| フリーキャッシュフロー | 安定した正値 | キャッシュを燃やさない |
| 5 年 EPS CAGR | ~20% | 高品質成長 |
三日目:経済的な堀と競争分析。Claude との対話で最も緊張感があった日である。「FN は受託製造にすぎない。堀はどこにある?受託は価格勝負ではないのか?」と問いかけた。
Claude の返答で、FN の堀を再理解した。光通信モジュールの製造は「スマホ筐体の組立」のような低技術の受託製造ではなく、サブミクロン級の精密位置合わせを要する。1.6T 光モジュールの製造歩留まりが核心競争力であり、FN はこの領域で十年超のプロセス経験を積んでいる。顧客が発注先変更の隠れたコスト(再検証、歩留まり立ち上がり、納期遅延)は、製造委託費を 5% 余分に払うよりはるかに高い。これはコストの堀ではなく、技術認証の堀である。
こうした「あなたが疑義を出す → AI が検証に戻る → さらに追問する → より深い結論を迫り出す」相互作用こそが、研究品質の真の源泉である。「FN は良いか」とだけ聞けば、広報稿レベルの答えしか得られない。
四日目:バリュエーションシナリオ推演。「FN はいくらに値するか」とは聞かず、三つのシナリオを推演した。
| シナリオ | 仮定 | PE 倍率 | 含意 |
|---|---|---|---|
| 強気 | 1.6T が前倒し出荷加速、顧客多様化が突破 | 35-40x | 市場がプレミアムを付ける意思 |
| 基準 | 既存成長軌道 20-25% を維持 | 25-30x | 妥当なバリュエーション中枢 |
| 弱気 | 顧客が注文削減、光通信景気が反転 | 15-18x | 歴史平均の下縁 |
当時 FN の PE は歴史平均 20x から 42-52x へ急騰していた。これは自分にこう告げた。市場はすでに強気シナリオを織り込んでいる。参入するなら、強気よりさらに良い未来を信じていることを確認しなければならない。
五日目:産出と公開。CoWork は完全な HTML 報告(ブランドテンプレート、六章構造)を直接出し、同時に Ghost 配信スクリプトも生成した。一行 node push-fn-research.js を走らせ、記事を Ghost バックエンドへ送り、確認後に Publish。公開フロー全体で五分である。
六、よくある誤りと落とし穴:自分が踏んだ穴
AI で投資研究をすることにリスクがないわけではない。以下は実際に踏んだ穴である。
Claude が「FN の堀は深い」と言っても、堀が本当に深いとは限らない。AI には「確認バイアス」の傾向がある——堀はどこかと聞けば、熱心に探して見せてくる。正しいやり方は逆に問うことである。「FN の堀が破られ得るシナリオは何か?」「どんな条件下で顧客は発注先を変えるか?」正面と反面の両方を聞いて初めて、完全な像が得られる。
Claude は複数ソースからデータを整理するが、異なる会計年度の数字を混ぜたり、期限切れのアナリスト予想を引用したりし得る。重要な財務数字はすべて、元の決算資料に戻って確認する。自分のやり方は、枠組みと定性分析は Claude に整理させ、定量データは必ず自分で SEC Filing か StockAnalysis.com と照合する。
最初は A/D Rating 閾値を C に置き、通過銘柄が多すぎてスクリーニングがスクリーニングでなくなった。後に B+ へ変え、300 銘柄が 22 銘柄だけ残り、品質は直ちに上がった。閾値の価値は、より多くの銘柄を通すことではなく、通過した一銘柄ごとに時間を使う価値があると確信できることにある。
Claude は幅 $500 の Iron Condor を提案し得るが、口座が $12,000 しかなければ、一つのポジションだけで 5% 超——リスク管理上限を超える。Project の Instructions に口座規模と Risk Unit 規則を明記すれば、Claude は自動で実条件に合わせる。
七、完全チェーン:スクリーニングから公開まで
三つの Phase をつなぐと、ワークフロー全体はこうなる。
Excel ダウンロード
CANSLIM スクリーニング
4 リスト
ワークスペース構築
五日の研究
ワンクリック公開
このチェーンの各区間は再現可能である。次に FICO、MCO、SHW を研究しても、プロセスを再設計する必要はない——別の Excel に替え、新しい Project を開き、同じ Skill とテンプレートを走らせる。研究品質は当日の調子ではなく、システムの設計に依存する。
時間コストの実比較
| 工程 | 純手動 | 三層ツール使用 | 節約 |
|---|---|---|---|
| 300 銘柄のスクリーニング | ~4 時間 | 30 秒 | 99% |
| 研究枠組みの設定 | 毎回 30 分 | 0(Project が記憶) | 100% |
| 財務データの整理 | ~2 時間 | ~10 分 | 92% |
| 報告の組版 + 公開 | ~3 時間 | ~5 分 | 97% |
| 研究全体(深度分析含む) | ~25-30 時間 | ~8-10 時間 | ~65% |
最後の行に注意。全体の節約は「わずか」65% であり、99% ではない。なぜなら本当に時間がかかるのは思考——結論への疑義、交差検証、見解の形成——だからである。この部分は自動化できず、またすべきでもない。
AI が省くのは「組立時間」(assembly time)である。データの収集、組版形式、枠組みの繰り返し説明。そのぶん精力を「判断時間」(judgment time)に集中できる。堀は本物か偽物か?バリュエーションはどれだけの成長を織り込んでいるか?自分の口座はどれだけのリスクを耐えられるか?
最も高いのは AI の月額ではなく、「組立」に費やす時間である。毎週 10 時間の組立時間を省けば、一年で 500 時間になる。この 500 時間を深い思考、交差検証、あるいは単純に休息してより良い判断に充てる——どの使い方も、手動組版より価値がある。
八、結語:システムはインスピレーションより重要である
大半の人が AI で投資研究をするやり方は、毎回料理を「冷蔵庫を開けて何があるか見る」ところから始めるのに似ている。インスピレーション駆動で、品質は不安定で、蓄積できない。
Skill / Project / CoWork の三層アーキテクチャは、「インスピレーション駆動」から「システム駆動」へ転換させる。
Skill は「どうやるか」の一貫性を保証する。今日の調子が良くても悪くても、CANSLIM の閾値は Comp ≥ 90、A/D ≥ B+ である。FN が通過したのは数字が十分硬かったからであり、NET が落ちたのは機関が売っていたから——システムに感情はない。
Project は「何を知っているか」の蓄積性を保証する。一日目の産業地図は消えず、四日目のバリュエーションの入力になる。次四半期の決算が出たら同じ Project を開くと、すべての過去分析がある——ゼロからではなく、前回の結論から始める。
CoWork は「何を産出するか」の実行力を保証する。研究結論はチャット窓の文字に留まらず、公開可能な報告、Ghost へ送れる HTML、追跡可能な投資ノートになる。アイデアから完成品まで、「いつか整理する」という先延ばしの余地がなくなる。
銘柄研究をしているなら、使うのが Claude、ChatGPT、Gemini のいずれであっても、核心原則は同じである。先にシステムを作り、それから研究する。一日かけてスクリーニング規則を封入し、研究テンプレートを作り、ワークスペースを設定する——その一日の投資は、今後の毎回の研究で報われる。
市場は最も長く生き残る者のものである。研究システムもまた、そうである。
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